会議後、うたたねしたアルフレッドくんが夢を見るお話
今年最初の世界会議は、連合王国で開催された。

会議は今日も終日絶好調であっという間に一日が終わり、夕日が斜めに差し込む議場で、俺は今一人でイギリスを待っている。今回の世界会議は全三日の工程で、今日は二日目の中日だ。久しぶりだね!の食事会は初日の昨日に済ませたし、会議お疲れ様!の打ち上げは明日開催される予定。つまり、今日の会議後が期間中唯一の自由時間ってわけだ。国同士はたいてい長きにわた(りすぎ)る付き合いを経ているので、まあだいたいみんなお互いに気心も知り尽くしてるとは思うけど、こういう日の食事はその中でも特に親しい相手と摂ることが多い。俺の場合だと、日本とか、カナダとか、あとはご存知、元ナンバーワンお兄ちゃん、とかね。
そういえば、「元」が「ナンバーワン」にかかるのか、「お兄ちゃん」にかかるのか、彼はやたら気にしていたっけ。そんなの、前者に決まってるのにな!なんてったって、今のナンバーワンは、この俺だからな!

ふふふと笑い、頬杖をついて、目を閉じた。
顔に当たった夕日があたたかい。腕時計からカチカチと時を刻む音が聞こえる。一定のリズムが心地いい。俺の意識は身体から離れ、どんどんとあやふやになって、空気中に拡散してゆく。



暖炉の火がパチパチと爆ぜる音で、急に意識が浮上した。
温かくて、ふわふわしたものと寄り添い合っている。
「なんだ、アルフレッド。目が覚めたのか?」
俺の身じろぎで目を覚ました毛玉が、あくびをしながら俺に話しかけてきた。
「うーん、なんか、ニンゲンになった夢を見たんだぞ」
「そりゃあ猫だって夢くらい見るだろ。もう一回寝ようぜ。俺はまだ眠い」
アーサーが、ざりざりと俺の顔を舐めてくれた。
彼は俺よりもひとまわりほど小さく、むくむくとした柔らかい毛に覆われていた。猫になってもやっぱり眉毛は健在なんだな。俺はうっとりと安心して、そしてまたもったりと目蓋が重くなった。
飼い主が掛けた、柱の古い時計がコチコチと鳴っている。アーサーのふわふわしたしっぽが、それに合わせてメトロノームみたいに揺れている。
俺は彼を愛している。俺は彼に愛されている。



コリコリと、頭蓋骨に振動を感じた。
ふわふわした感触は傍になく、代わりに湿気が篭った熱いシーツに纏われている。ああ、昨日はアーサーと寝たんだっけ。彼は今、寝ぼけて俺のつのに自分のつのをこすり付けているんだ。
アーサーは、俺たちよりもひとまわりもふたまわりも小さなそのつのにささやかな劣等感を持っていて、イヴァンやフランシスの前では絶対に帽子を外さない。(ちなみにその帽子はとてもちんまりとしていて、かぶることによって角が隠れるとか、そういう類のものじゃない。俺には意味が判らないけど、アーサーいわく、それが紳士の嗜みらしい)
そんな、普段は隠している秘めやかな部位を俺の前でだけさらけだし(しかもちょっぴり恥ずかしそうに)、ときにはそこを使ってとても官能的な動きを見せてくれる。今のこの行動がそれで、お互いのつのをこすり合わせる動きは、はたから見れば大そう間抜けに違いないが、行為自体は気持ちがいい。
薄く目を開くと、焦点が合わないくらいの近さで、アーサーはうっとりと粘つくように首を前後に動かしていた。頬が赤らみ、少し汗ばんでいる様が艶かしい。耳の奥で、心臓が刻むビートが鳴り響く。布切れを剥いで、つの以外のところもくまなくこすり付け合いたい。本能はすぐに理性を凌駕する。俺は大きく口を開けて、まだ眠っているアーサーの首に噛み付いた。 早く早くと欲望を増幅させるリズム。もう、何も聞こえない。俺は意識のハンドルを手放した。 抗えないよ。だって、俺たちの半分はケモノの血が流れてるんだからさ。



「アメリカ」
イギリスが俺を呼ぶ声で目を覚ました。
彼を待つうちに眠ってしまったみたいだ。テキサスを外して、指先でまぶたを揉む。
「夢を見たよ」
「どんな?」
「夢の中で、夢を見る夢」
「なんだそりゃ」

入れ子状に展開する、夢の中の夢。その世界には俺じゃない俺がいて、彼じゃない彼がいる。
だけど、どの瞬間を切り取っても、俺は彼を求め、そして彼に求められている。

「なあ、イギリスー。夢の中でも、俺は君に愛されてたんだぞ」
イギリスのスーツを掴まえてつんと引っ張ったら、彼は手櫛で俺の髪を直してくれた。
「当たり前だろ。どこで出会っても、どんな世界でも、俺たちは、ケンカして、いちゃいちゃして、そんで最後にはセックスすんだ。そういうふうにできてんだよ」
「ふうん。そういうものなのかい?」
「そういうもんだ」

「じゃあ、俺たちも?」
「そうだ、俺たちも」

そうして、俺たちは並んで会議場を出て、用意されたホテルに帰った。これから恋人の時間が始まるから、今日のディナーは、少し遅めのルームサービスだな。
エレベーターに乗り込んで扉が閉まると、イギリスが待ちきれないとばかりに俺にキスを仕掛けてきた。



それでは、この夢は、ここまで。
引き続き別の夢で、別の俺たちをお楽しみ下さい。
わかるかい?検索キーワードは、「アルアサ」だよ。
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2017/01/21

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