付き合って最初のバレンタインをアルフレッドくんが回想するお話。学ヘタです。
やあ、俺だよ。
世間はバレンタイン商戦真っ盛りだね!この時期のデパ地下は、色んなチョコレートが売られていて楽しいよな。自分で食べても美味しいし、贈りものを選ぶのも楽しい。 君は今年、誰かにチョコレートを贈るのかい?俺は、そうだなー。今年も恋人から、手作りの黒くて苦い塊をもらうんじゃないかな。黒くて苦いそいつらを、恋人とふたりで、真顔でもくもくと胃袋に詰め込むのが、ここ数年のバレンタインデーの過ごし方だ。心配しなくても大丈夫だぞ! 口直し用の既製品のチョコレートは、俺が用意しておくのが暗黙の了解になってるんだ。苦行の後は、美味しいチョコレートで甘い恋人の時間を過ごすんだぞ!

今ではそんな風にあうんの呼吸の俺たちだけど、まあ、何事も最初から上手くはいかないよな。二人にとって心地良い状態に落ち着くまでは、トライアルアンドエラーの連続だったさ。

今日は君に、俺たちの初めてのバレンタインがどんなだったか、思い出話を聞かせてあげるぞ!

俺たちが付き合い始めたのは、W学園で学生をやってるときだった。
俺のほうは、実は結構前から彼のことが好きだったから(具体的にいつから好きだったか、については黙秘権を行使するぞ)同じ学び舎で毎日顔を合わすことができる学園生活は、彼との距離を縮めるまたとないチャンスだったんだ。ここだけの話、そりゃあもう頑張ったさ!ヒーローの総力を注いだよ!そんなこんなで、ピンチもチャンスに変えたりして、俺は無事にイギリスを恋人の椅子に座らせることができたんだ。

だけどさ、よし付き合おう!ってことになっても、俺と彼は恋人じゃない関係でいた時間があまりにも長かったから、最初はギクシャクしたものだったよ。まず何よりも、俺が本気だってことを、彼はなかなか理解してくれなかった。付き合いたての頃は、本当に、本当に俺はイギリスのことが好きで、アメリカはイギリスに恋をしているんだってことを、彼にわかってもらえなかったんだ。

そんな状態だったから…
初めてのバレンタインは、俺の期待だけが空回る、ひどい結果だったんだぞ。
…そうだよ。イギリスのやつ、バレンタインデーをスルーしたんだ!つまり、俺だけが彼に贈り物を用意して、いつどうやって渡そうか、そんなことを考えながら朝から浮かれていたんだよ。俺だけが!
彼のほうは、なーんにも。心構えすらしてくれてなかったんだよ!

スルーされたって判ったとき、俺は完全に涙目だった。そんな俺にイギリスが言い放った台詞は「お前、俺のチョコが欲しかったのか?」だった。欲しいに決まってるじゃないか!だって、付き合って最初のバレンタインだぞ!浮かれるなって方が無理な話じゃないのかい?!
自分の正当性をまくし立てた俺に、「仕方ねぇなー」って。イギリスはそう言って、ポケットから赤い板チョコを取り出してくれた。だけどさ、俺はちゃんと知っていた。その板チョコは、とくべつ俺のために用意されたものじゃないってことを。意外に思われるかも知れないけど、イギリスはチョコレートが好物で、いつもポケットや鞄に、その赤いパッケージのチョコを忍ばせている人なんだぞ。
たぶん俺は、拗ねた目をしていたんだろう。彼は「まあそう怒んなよ」とかなんとか俺をあやしながら、おもむろに板チョコの包装を破った。

え?それ、俺にくれるんじゃないの?って、君だって思っただろ?
俺のキョトン顔を無視して、イギリスは口あけてさ。俺はただ、むき出しになった板チョコが、彼のつやつやした白い歯に挟まれて、パキンと音を立てて割れるのを見ていた。

で、何が起こったと思う?

「ほえ」
チョコレートの欠片を咥えたイギリスが、俺に顔を近づけたんだよ。彼の、挑発的なみどりの目、その下にうっすらと浮いたそばかすのあたりが、チョコレートのパッケージみたいに赤く染まってた。

まあそれで、俺はイギリスの唇ごと、ちゃあんと初めてのチョコレートを頂いた、ってわけさ!
ほんとうに、彼ってば仕方ないやつだよね!でも俺は寛大な男だから、それで許してやったんだぞ!


俺たちの最初のバレンタインの思い出話は、これでおしまい。
君も、楽しいバレンタインデーを過ごしてくれよな!
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2017/02/11

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