竹取物語パロ。スペードに入内するアーサーさんのお話。
※アルアサですが、アルアサがメインのお話ではないです…。
※アーサーさんの捏造パパが出てきます。
西の島国では、カークランド家が絶大な権力を誇っていた。彼らの血筋は、いにしえに遡れば竜と人の混血であると云われ、その名残なのか、嫡子はみな規格外の魔力を宿して生まれてくるらしい。カークランド家は、決して枯れることのない先祖伝来のギフトを各人の血と肉のうちに携えて、この地方のあらゆる分野において最先端の道を切り開いた一族だった。

そんな一族に、新しい命が誕生した。その子どもは母親譲りの陶器の肌に鈍く輝く髪を持ち、父親譲りのイブニングエメラルドの瞳を、金色の重たげなまつげに縁取らせた見目麗しい男の子だった。白い小さな顔に堂々と居座る金色のまゆげは少々太すぎるが、これこそが、彼がカークランド一族に属する証でもある。

カークランドは特出した魔力と島内随一の権力を持った血筋である。そこに生まれたうつくしい男の子の知らせは海を越えて伝わり、間もなく国外からも子どもを求める求婚の声が上がったのだった。

子どもの父親は、結婚させるにはまだ幼すぎるとそれらを一掃したが、どうしても断りきれない求めがひとつだけあった。彼は苦肉の策として、子どもと引き換えに、決して手に入らないであろう、伝説の宝物を先方に要求した。神々の使い賜う食器、サラマンダーの脱殻、フェニックスが産んだといわれる七色の貝がら、エトセトラ。

一方、子どもを求めていたのは、スペードの王君そのひとであった。彼は幾千の時を生きる死なずのからだで、夜空を渡る金色の船に住まう、まさしく雲の上の存在であったので、 父親にとっては不幸なことに、 無理難題に応える術を知っていた。かくして王は父の望んだ品を携え、子どもを受けにカークランド家を訪れた。天空から地上に舞い降りた現人神は瑞々しく精悍な若人の姿で、カークランドの息子であるアーサーとついに対面を果たしたのだった。

「千年待ったよ、アーサー」
父親の見守る前でスペード王は子どもに跪き、感極まったように彼を抱きしめた。
「君の魂が再び肉のうつわを得るまで、俺は、千年待った」
スペード王のくちびるがアーサーの丸い額に触れた瞬間、それまで知らない大人にはにかみ、年齢相応に怯え戸惑っていたアーサーがぴたりと動きを止め、宝石の瞳をゆらゆらと揺らした。

「ちちうえ」
鈴の転がる声で、子どもが父を呼ぶ。幼子の細く高い声音にはしかし、これまでにない知性と落ち着きが秘められていた。
「父上。俺は、キングと共に参ります。今日まで育てて下さってありがとうございました。大切にして頂いて、感謝しています」
父親は、血と肉を分けた愛しい息子の、そのからだに宿る魂が預かり物であったことを悟った。

アーサーは、スペード王と行ってしまうのだ。
別離を覚悟し、静かに涙を滴らせる父親を小さな手で抱きしめ、 子どもはいたいけな容貌に似つかわしくない、深い慈愛の笑みを浮かべ、ばら色の唇で魔法を寿いだ。

「カークランドの家がとこしえに栄え、貴方の血脈が永遠に続きますように…」

眩しい光が一面を包み込み、視界が戻る頃、スペード王も、その従者も消え失せ、 子どものいた場所にはただ一つの花束がぽつんと残るのみだった。それは金と銀の花びらを綻ばせた花々に、しっとりと淡く光る真珠の実をつけていた。

「どんな宝石も宝物も、決してお前の代わりにはならないんだよ、アーサー」

父親は花束を強く抱きしめて、声が枯れるまで、泣いた。

※このあとアーサーさんは定期的に里帰りをしたので、パパは寂しがらずに過ごせました。
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2017/02/18

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