○○しないと出られない系の部屋に閉じ込められたべいえい
目覚めると、見知らぬ白い部屋にいた。
家具も備品もない、真っ白な内装の広い部屋で、ぽつんと椅子に座っている。ぼんやりと働かない頭で、はておかしいな、とイギリスは思った。さっきまで、自分は世界会議に参加していて、不本意ながらも例のごとく、隣国とぎゃんぎゃんやらかしていたはずなのだが。
夢を見ているのだろうか?もしや居眠りでもしてしまったか?いやいや、ネコやトマトやパスタでもあるまいし、自分に限って、そんなことはありえない。

そこで、えへんえへんと、わざとらしい咳払いが響いた。ぐるりと首を回すと、アメリカが数メートル離れた場所で、ふんぞり返って座っている。
「やあイギリス。やっと目が覚めたのかい?こんな緊急事態に、ずいぶんと余裕じゃないか」
「アメリカ。お前が俺をここに連れてきたのか?ここ、どこだよ?会議はどうなったんだ?」
「連れてきたのは俺じゃないよ!いいかいイギリス。落ち着いて聞いてくれ。どうやら俺たちは、会議に乱入してきた何者かに拉致されてしまったらしい」
アメリカの台詞が妙に芝居がかっているな、と訝しがりつつも、イギリスは驚き、慌ててみせた。
「なっ…!どういうことだよ!」
イギリスの迫真の演技にのせられて、アメリカは待ってましたとばかりに続ける。
「ほら見てくれ!ここに脅迫状がある。俺が読み上げるから、ちゃんと聞いててくれよ」


『あなたたちは、セックスしないと出られない部屋に入ってしまいました。速やかに実行して下さい』


「・・・・・・」
沈黙が横たわった。
イギリスが言葉を失ってアメリカを見ると彼は期待に満ちたキラキラとした瞳でイギリスのことを見つめていた。
「あ…っと、それだけか?」
「えっ」
「俺たちがセックスすりゃ、ここから出られるって、書いてあんのか?」
「そ、そうだよ!嘘じゃない!ほら!」
覗き込むと、味気ないコピー用紙に、確かにそう印字してあった。アメリカに強く握られた紙の端が、水分を吸ってゆるく波打っている。

「あー、じゃあ、しようぜ」
イギリスはジャケットを脱ぎながら、アメリカに体を向けた。アメリカは、こぼれんばかりに目を見開き、のけぞっている。
「えっ。君、本気なの?キスとかハグじゃなくて、セ、セックスだよ…?」
「だって、やんなきゃ出らんないんだろ」
「いいの?だって俺たち…つ、付き合ってもないのに?」
「じゃあ、付き合うか?」
こっそりため息をつきながら告げたイギリスに、アメリカはかぶせ気味に問いかける。
「きききき君っ!俺のこと、好きなのっ?!」
「ああ、好きだ。だから、俺にはなんの異存もない。さっさとやって終わらせようぜ」

「俺だって!君が!好きだ!」

イギリスは、感極まったアメリカに強く抱きしめられた。諦めと疲労でいっぱいのイギリスに、それでもじんわりと喜びの灯が点る。

アメリカが自分に想いを寄せていることは、もうずっと前から気づいていた。
意外と気弱な一面のあるヒーローから、イギリスはあの手この手で気持ちを試されてきたのだ。奔放な性格の割りに恋愛には奥手だったアメリカを好ましく思ったので、イギリスは文句も言わず、アメリカに試されてやったし、好意だって隠さずに還してきたつもりだった。それでも尚、告白の勇気を持てなかった彼は、とことん思いつめてしまったのだろう。結果、こんな血迷った手段を選択するほどに。

アメリカの腕の中で、イギリスは考える。彼はいつかきっと、二人がこんな風に始まったことを、ちょっぴり後悔するのだろう。だけど、イギリスは、腹の探り合いはもうたくさんなのだった。早く、抱き合ってキスできる立場が欲しかった。
愛し合ってさえいれば、はじまりなんて、イギリスにとっては大した問題ではないのだった。
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2016/11/25

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